海岸研用 論文の書き方ゼミ

風間聡,(横尾善之)


これは,平成12年,13年と教官が手をかけなかったため,数多くの提出論文が不採択された反省に基づき,質の良い論文を書くためのマニュアルである.これに従って書けば,教官に一から指導をうけなくともある程度の論文が完成されるはずである.(平成13年12月記)


論文の書き方マニュアル (ver.1.1)

目次

作業1 構成を考える
作業1’ 文章を書く前に
作業2 序論を書く
作業3 本文前に必要なこと
作業4 結果の記述
作業5 考察と議論
作業6 まとめと謝辞と参考文献
作業7 題目と概要
作業8 体裁を整える
作業9 提出前に

論文あれこれ


作業1 構成を考える
論文を書くにはまず構成を考えます.これには決まりがあります.それは研究のタイプによります.あなたの研究タイプを考えてください.1:実験型2:実測型3:数値計算型4:理論解析.リモートセンシング技術は実測になりますし,既存データの統計解析も実測型になります.また,実測と数値計算の併用もあるでしょうが,どちらが重点かで考えてください.両方大事な場合は両方の型を参照して,構築します.

1:実験型
題目
概要
1.序論
2.実験装置
3.観測条件と取得データ
4.データ解析と結果
5.考察と議論
6.まとめ
謝辞
参考文献


2:実測型
題目
概要
1.序論
2.観測対象領域
3.観測手法と取得データ
4.データ解析と結果
5.考察と議論
6.まとめ
謝辞
参考文献


3:数値計算型
題目
概要
1.序論
2.計算条件と観測対象領域
3.数値計算結果
4.データ解析と結果
5.考察と議論
6.まとめ
謝辞
参考文献

4.理論解析
題目
概要
1.序論
2.基礎構成式と導出
3.解析結果
4.考察と議論
5.まとめ
謝辞
参考文献


自分の書く論文の構成がイメージできたでしょうか? 次に書く順番を考えます.まず,題名を適当に考えて一枚目に書きましょう.いよいよ書くという実感がわきます.実は題目は大変重要なものなので,後でもう一度推敲しなおします.概要は一番最後に書きますので,空欄にしておいて,序論から書き出しましょう.



作業1’ 文章書く前に
初めて論文を書く人はここを読んでください.文章の書き方の最低限必要なことを記しておきます.

1.「である」調で書く.「です,ます」調は受け入れられない.
2.主語と述語の関係を常に気にする.修飾語も含めて文の構造に気を配ってください.
3.シンプルな文を心がける.冗長な文は避けるべきです.

例文
現在世界中で地球温暖化による気候変動が予想されており,メコン河の流域開発にも大きな影響を与える可能性がある

上の文では,世界と地球が重なっていてくどい,前半と後半のつながりが不明瞭,主語がないためぼやけた文になっている,等が良くない.この文を訂正すると,


現在,地球温暖化による気候変動に伴い降水量が大きく変動することが懸念されている.その降水変動はメコン河の流域開発に大きな影響を与えることが予想される.

となるが,まだ,主観と客観もあいまいなのとくどい感じがするので,

地球温暖化による降水の分布と強度の変化はよく知られている.この降水変化によるメコン河の環境への影響が懸念されている(J.W.Jacobs, 1997).

とすれば主語述語の関係が明白であるし,引用することで客観性が理解される.これを参考に文を構築してください.1文1文を丁寧に.



作業2 序論を書く
序論は論文の書き出しであり,読者をぐぐっとひきつける必要があります.ここで,著者が何をどうしたいのかを知ってもらいます.いわば著者が読者を自慢の観光地に連れ出す前振りになります.旅行会社がこの観光地は良いですよという売り込みをかけるわけです.これが序論です.ツアーコンダクターになって考えてみてください.

序論も幾つかのパートに分けられます.()内はコンダクターの説明の流れです.
1.最近の世の中の動きと同時にどうした問題があるか.(最近の観光地事情)
2.それに答えるためにどのような研究がなされているか.(どういったツアーがあるか)
3.そうした論文の中で本論文の位置付けは何か.(お奨めのツアーの良さ)
4.論文の構成または流れを説明する.(予算と日程)

ここではそれぞれのパートを,1:導入2:既往研究3:位置付け4:論文構成としてそれぞれを見て行きましょう.

1:導入
ここでいかに読者をひきつけるかが勝負の分け目です.社会背景と研究動機について述べます.最近の世の中の動き→問題点→解決策として何があるか→こうしたい! と書いてみましょう.

例文
都市・発電・農業用水として重要な水資源である雪は同時に融雪洪水等をもたらす災害要因であり,国土の有効利用のためには水資源としての雪の利用を図る一方で,積雪・融雪被害を最小限にとどめる努力が必要である.このような積雪・融雪管理において不可欠な要素は流域積雪水量および融雪量の推定とこれに基づく融雪流出解析である.
(小池他,土木学会論文集,1985)


以上の導入は大変エレガントで美しいが,もう少し遠慮しない書きだし方もできる.

例文
近年,人口貯留施設の環境に及ぼす影響が多大なことから,施設の建設が見送られ,将来の水資源の確保が懸念されている.雪は,貯留効果が大きいため,自然の力によって水の有効活用が期待できる重要な水資源である.一方,雪は生活環境を脅かし,しばしば融雪洪水を引き起こす災害因子にもなる.このような....

上のはちょっとくどいがわかりやすい表記といえ最近の流行のようです.また,より気を引くには卑近な例をあげるのも効果的です.

例文
1999年4月に石狩川において気温の急上昇と降雨が相まって融雪洪水が生じた.これによる損害額は??億円にのぼり,経済的な打撃をうけた.一方,1996年には小雪のため春季に低水流量が確保できず渇水の被害が生じ,田植えが出来ない被害も生じた.これらの例は融雪がその地域の水資源に与える影響が大きいことを如実に表している.このように....

新聞調で書くと読者にイメージがわきやすい.

2:既往研究
導入をうけて,「以上のような問題には,過去山田太郎が,ベルヌイ式によってサージングを明らかにした.」を列挙すればOK.ここで大事なのは,(1)簡潔に要点を述べること.(2)論文の書式にあった記述であること,です.元来,海岸研は参考文献の調査が不得手であるので,しっかりとやる必要があります.最近はインターネットで検索できるので,20から50位,題目やキーワードから収集し,5から10編くらいを本文中に載せます.論文を全部読むことは時間がかかるため,一番よく使われる方法は,概要と図面,結論を参照することです.関連した図面とそれを説明した本文も読んでおくと良いでしょう.参照の仕方は最後に述べます.とりあえず,引用した文末の()内に著者名をいれておいてください.

3:位置付け
既往の研究を述べた後に,それらの成果が解決できなかった点,検討されていない点を表します.それがどのような意味を持つか述べると同時に本研究の位置付けを記します.ここで初めて目的を明確に記します.序論の核になります.基本は「本研究は〜を明らかにするために,○○によって定量的解析を行うことを目的とする」です.

例文
OD430の内容においても,職業の転換に伴う不確定性に対する配慮が十分とは言えない.更に,WCDによる報告書でも住民が職業を転換する場合の具体的な対策は提示されていない.本研究の目的は,過去に世界銀行の融資によって建設されたダムを事例として分析と考察から,代替農地による補償が困難な立地におけるダム建設プロジェクトに際して,職業転換を伴う水没地住民の移住が,住民に不利益を与えることなく実施されるための方法論を事例による検証から提案することである.
(中山他,水文・水資源学会誌,2001)


なお,既往の研究と位置付けを論文ごとに述べる書き方もあります.こちらは応用編ですが、一つ一つの論文をキチンと読んでいればむしろ書きやすい方法といえます.

4:論文構成
従来は大きな論文で使われた手法です.予稿集では必要ないですが,公表論文でも使われるべきと思います.つまり,読者にどのように進行するかあらかじめ知らせることで不安なく読み進めることが出来るし,目次としても利用できるからです.

例文
1節は序論であり,2節で本研究で用いた基礎方程式の説明と摂動法について述べる.3節では摂動法による渦の発達の過程をレイノルズ数でまとめたものを示し,4節で研究成果の考察と議論を実験によって行う.5節はまとめである.



作業3 本文前に必要なこと
解析内容や結果を述べる前に,読者に知っておいてもらうものとして,研究環境やデータの中身があります.実験系の内容なら,装置,観測機器,観測系なら観測領域,観測機器となります.

以下に節になりそうな題目ごとに説明します.

観測地域
観測した場所がどこにあるのかを述べます.流域面積,土地利用,人口,気候,水文,地形等について述べます.また,観測地点の位置や論文に関連した話題について述べます.を使いましょう.

実験装置
装置の図面は必須です.サイズを記入しておきましょう.その際,どういった現象を生じさせることが出来るか,可変条件は何かを記しますし,自ら工夫した箇所も述べます.また,造波板などメーカーのものを利用している場合はメーカー名と仕様を明らかにします.種類と特徴についても述べると良いでしょう.

数値実験条件
用いた計算式もここで述べます.詳しくは次の式の導出参照.それに続いて計算格子,差分スキーム,境界条件,初期条件について述べます.利用するデータについても書きますがそれは下のデータの中身を参照.

式の導出
基礎方程式から解析対象となる式までの導出を書きます.ある程度省くことが必要になります.新しい記号を使う場合は,その都度,記号,代数を説明します.単位も記述します.各式には必ず式番号をつけましょう.他人の公式,式を用いる際は,参照する必要があります.これは後に述べます.

データの中身
利用したデータについて洗いざらい説明します.どうやって得たのか,出典元はどこか,観測間隔はいくらか,精度は,観測期間はいつか,どこで観測したものか,つまり5W1Hを明らかにします.また,種類やデータのサイズについても述べましょう.他に説明書みたいなものがあるときは,参照にゆずってもかまいません.



作業4 結果の記述
観測結果や実験結果という節の名前で記述します.


結果は,考察と結論を見通しながら記述していきます.
論文を書こうと思う人はある程度の結果が出ている人だと思います.結論に至る過程を示すのがこの章の中身です.常に結論を頭に描きながら書き進めます.

まず,別紙に,もしくはワープロの末尾に結論を列挙しましょう.結論は,この論文で言えたこと,言いたいこと,示したい結果が相当します.

その結論に読者を導くように結果を示していきます.結果は図面や表をふんだんに使いましょう.問題はページ数が限られている場合,図面を全て載せられない場合です.この場合は,図面を小さくして載せるということは避けます(図面の項参照).途中の過程を文章に譲ることを考えます.

どのようにして得られたか,その時の条件はなにか,何を表しているか,何がいえるのか,等を列挙しながら記述します.条件や手法が以前の章で説明されている場合は省いても良いですが,しつこくならない程度に再記述するのは読者にやさしい書き方と言えます.

また,結果の章で考察を述べることはよく使われる方法です.ただし,考察の項で述べますがそれを裏付ける情報を付加する必要があります.

例文
露場ライシメーターによる融雪量データのうち降雨の影響のない9日間について,放射収支量モデルから計算される融雪を除いた残りの成分にdegree-hour法を適用する.この場合の融雪係数をmidified degree-hour factor(mdfh)とし,Table3に各日の融雪量(M)・放射収支による融雪量(Mr),dh,mdhfを示す.mdhfの標準偏差は0.01(mm/dh)でおおむね一定となり,degree-hour法による融雪量(Md)は,式(7)として得られる.
(小池他,土木学会論文集,1985)


各結果の説明が,良い流れにのっているように書くことが必要です.前後に関係ない結果が唐突に示されることがままあります.その図面を見せたいのでしょうが,結論に至るには関係ないなら思い切り除きましょう.論文記述は,得られた結果を省いていく作業とも言えます.

但し,一枚の図が興味深いのであれば,その旨を断って別の章,もしくは節として設けて説明し,一つの結論として位置付けることも可能です.

もちろん,結論が一つでない場合もあります.結論が2,3ある人は節に分けて記述することも効果的ですし,流れの中で,結論が示される場合もあります.くどいようですが,結論を常に念頭におきながら流れにのって書き進めます.



作業5 考察と議論
結果について深い考察をして,結論に導く補強をします.解析手法や結果が適当か,得られた結果から何がわかったか,他の論文ではどうなっているか,本論文で改良されたか,何がよくなったか,何が解決されていないかを示します.

ときどき「考察とは何か?」と質問されます.考察こそが研究のハイライトであり,結論に達する最後の一振りを示す場所です.特に何がわかったか,は一番大事な部分です.場合によっては,実験や計算による確認,検証もここに入ります.他の論文や結果を引用するには,参照の項を参考にしてください.

論文中で示した結果が,本論の結果を補強することはよくありますので,前作業の結果の記述と考察が一緒になることはよくあることです.

また,考察結果から新たな結果が得られることもあります.こうしたものを示しながら結論へと導きましょう.

例文
高波の極値資料の場合には,海域ごとに異なる特性が現れている.紋別から福井に至るオホーツク沿岸と日本海北部から中部ではξ値が低く,分布の裾が広いk=0.75や1.0のワイブル分布はほとんどの地点で棄却され,k=2.0のワイブル分布が有力である.〜中略〜このような海域によって高波の極値分布特性が異なるのは,波浪の発生原因(低気圧と台風)の違いや吹送距離の差異によると推測される.ただし,今回の解析は統計期間が短い地点が多いため,Table6の結果だけで判断するのは早計であり,今後さらに観測資料が蓄積され,統計資料としての信頼性がもう少し高くなった時点で再度検討する必要がある.
(合田他,土木学会論文集,1990)


例文
筑後川流域で,図−10中のNE,SW,S,SEを豪雨風速としている地上観測地点は,それぞれを初期風向とする計算結果の上昇域(図ー4(a))に含まれている.〜中略〜.以上の検討から,地上観測のアメダスデータから求められた豪雨風向は,豪雨の生起しやすい風向を示すといえる.
(沖他,土木学会論文集,1990)




作業6 まとめと謝辞と参考文献
最後に,まとめや結論,おわりにと言った記述でしめくくることにします.

まとめ,結論,おわりに
しめかたは,幾つかの方法がありますが,一番簡単で,わかりやすくシンプルな方法は得られた結論を箇条書きすることです.「本論文で得られた結果は,以下の通りである.1.〜,2.〜」といった具合です.それぞれの点についてまとめたことや,新たに生じた問題について,述べます.そして,将来への課題や新たに生じた問題を解決する案を記述して終わりにします.

例文
以下に本研究の要点を列挙する.
(1)起床力学に支配される時空間スケールよりも,より長い時間スケールもしくはより細かな空間スケールでの降水分布は,地形性強制上昇に代表される地形因子のみで推定されることが示唆された.
(2)〜中略〜
 以上により,流域内の降水分布について従来の研究に新たな知見が加わり,流域内降水分布推定の新手法が開発された.本研究によって,河川水文学における降水分布研究が新たな局面に向かうことを期待する.
(沖他,土木学会論文集,1990)


謝辞は,データを頂いた機関,助言してもらった人,手伝ってくれた人,研究費のサポートしてくれた機関について書きます.これを忘れるととんでもないことが生じるので注意が必要です.

参考文献は,投稿する論文の形式に従うようにします.引用順で記述するのか,あいうえお順なのか確認します.書き方も土木学会とそれ以外では違うことが多いので注意します.また,人名を間違えるとこれもしこりが残るので気をつけましょう.



作業7 題目と概要
題目概要は論文中で一番目と二番目に大事な所です.十分吟味して書きます.また,キーワードを付す論文もあります.順番に見ていきましょう.

1.題目

題目は論文の命です.他の読者がこれを見て気にとめるかどうかが決まります.まず,どんな分野の人に読んでもらいたいかを考えます.例えば,流出分野の人なのか,リモートセンシング分野の人なのかを考えます.その分野または専門の言葉ははずせません.地域に着目してもらいたいなら地域名を載せましょう.気にすることは,
「専門分野」,「現象」,「手法」,「地域」.「結果」
のうちどれかは必ず必要となります.普通はこれらを繋げてタイトルとします.

一般に「〜に関する研究」とはつけません.研究なのはわかっているからです.但し,まれに語調からつける場合もあります.一方,「〜の調査と解析」は調査に重点を置いていることを強調する意味でOKとされます.

2.概要
これも大事です.一般に読者は,タイトル,概要の順で見て面白そうなら図面を見ながら結論に飛ぶという読み方をします.ここで引き込まないと後へ進んでくれません.

概要は序論ではありません.研究の背景などを述べる必要はありません.これに異論を唱える人もいますが,限られた行数の中で最大限,論文をアピールするには省かれるべきです.

淡々とやったことを列挙するやり方が良いとされています.つまり,手法−結果−考察と書くやりかたです.

例文
環境配慮行動の普及に向け,社会心理学の観点から,行政・住民団体・一般住民の連携のあり方について,調査・検討を行った.まず,連携に不可欠な相互理解を深めるために,立場によって異なるコスト/ベネフィットを,複数の調査事例から整理した.次に,重要な「コモンズ」と「ネットワーク」という2つの連携促進のキーワードについて概説した.3番目に,行政と一般住民,行政と住民団体,住民団体と一般住民の,それぞれの連携のあり方について事例を紹介した.最後に,これらの知見は,社会心理学におけるマイクロ−マクロの観点から理解されるべきことに言及した.
(大沼他,環境情報科学,2001)


字数の制限があるので,作文は難しいものです.なるべく具体的な結果を示すようにします.我々の分野だと,得られた数字や結論を箇条書きにする方法もポピュラーです.

例文
人工衛星画像とAMeDASのデータを用いて東北地方の積雪量を推定した.この結果,(1)東北地方の積雪量は7km3に及ぶ,(2)この量は東京都家庭用水量の4倍に相当する,(3)積雪水資源は降雨に比べて3倍の時間で流出してくる,ことが明らかになった.

短い文をなるべく心がけましょう.

3.キーワード
キーワードについて明確な基準を私はもっていませんが,ウェッブ上でひっかかることを考えると,題目に用いたものの次に関連深い言葉を選ぶべきです.題目で使わなかった単語を列挙してください.



作業8 体裁を整える
いよいよまとめです.細かいところをチェックして仕上げに入ります.仕上げは,1:文字と書式2:図表の描き方3:参照の仕方に分けられます.

1:文字と書式
提出する論文にはかならず論文の書き方と書かれたものがあります.それに合致しないとどんなに優れた論文でも不採用になります.これを熟読する必要があります.文字は明朝体かゴシックか.12ポイントか11ポイントか.場合によっては,余白まで指定されている場合もあります.段落の大きさにも注意します.カラーマーカーをもって熟読してください.

2:図表の描き方
論文の中で3番目に大事な箇所です.まず,図中の文字は10ポイント以上にしましょう.縮小されることも考えて12ポイントがお奨めです.白黒の場合はわかるように差別化をはかりましょう.グラフに工夫がいります.ダッシュやドットラインをつかいます.縦軸と横軸には何を意味するのか,地図や写真ならスケールを,代数や数字には単位の記述は必須です.

とにかく,見ただけで何を表しているのかを,わかり易く書くことが要求されます.最大限の注意を払ってください.

キャプションも大事です.キャプションとは図1うんたらとか表1なんだらとかと書いてあるやつです.一般に図は下に,表は上に書きます.決して単純化しないで,多少文が長くても説明に足ることを書くべきです.




     図−1 人口密度と水需要量の関係
流域面積が大きいと人口密度の変化に対して水需要量の変化は小さい

下の1行は余計な場合が多いので昔の論文を見て確認してください.海岸研で図面を作成する場合は,図中の文字は全て英語表記で統一します.

3:参照の仕方
参照の仕方も提出論文の要求する形に合致するようにします.代表的なものは以下の2つで,

例1 有効降雨の必要性を論じている(風間聡他 1999).
例2 有効降雨の必要性を論じている2)


例2の場合は,参考文献の2)と合致している必要があります.また,他人の式を参照する際も同様にします.勝手に他人の式を参照しないで述べることは禁止されています.場合によってはペナルティをくらうこともあります.

地図や図面をよそからもってくる際はかならず引用してください.著作権にひっかかります.なるべく自作したものを使いましょう.



作業9 提出前に
提出する前に必ず!他人に読んでもらいましょう.絶対ミスがあります.また,教官に見せてチェックしてもらうのも必須です.I教授は半年寝かして,もう一度読んでから提出するそうです.頭が下がります.

論文を申請するには普通,申請書と概要がいります.これも書いておきましょう.

論文,申請書のコピーをとって,さあ提出しましょう.後は良い査読結果がでるように拍手(かしわで)3発.



論文執筆あれこれ


余談1 どこに雑誌に論文をだすか?

おそらくここまで読んだ人はどこかに出す目的があることと思います.が,雑誌や論文集の位置付けを知る意味でもここを読む意味があるかもしれません.

雑誌名 難易度 締め切り 制約等 その他
水工学論文集 9月末 土木学会員であることが必要
翌年3月に発表,掲載.6頁
CD-ROM
海岸工学論文集 3月末に概要
5月に全文
土木学会員であることが必要
11月に発表掲載.5頁
白黒
写植あり
土木学会論文集 随時 土木学会員であることが必要
ページ制限無し.
写植あり
参照率が高い
水文・水資源学会誌 4 随時 論文掲載までの時間が短い
カラーも出せる.
参照率が高い
業界最高
写植あり
APD/IAHR 2 2年毎概要9月
1月に全文
年によって提出期限が違う.
次回はインドネシア
レベルは高くない
Journal of Hydrology 4 随時 無料.CIは3.3位 年間に出る論文数多すぎ
Hydrological Processes 3 日本編集版が毎年4月位 CIは2.2位.基礎が多い 日本版が狙い目
Water Resources Research 5 随時 CIは3.2位.業界最高. 投稿料が高すぎる



余談2 査読結果について

修正依頼には従うのが一番ですが,中には良くわかっていないコメントもあります.よく吟味して自分の考えを通すことも必要でしょう.修正原稿提出時に,修正表を付けるとよいでしょう.すなわち表の左に修正コメント,右にそのコメントに対応したことを示します.これがあると差読者によい印象を与えます.


余談3 受理される論文を書くための研究戦略

研究のやり方として,ある予測を立てます.きっとこうなるだろうな...ということを仮定してその通りやってみます.そうなれば,それでOKです.しかし,うまくいかない際に,どうしてうまくいかないのかを仮定,確認する作業が追加されます.これが議論となります.また,その解決策を示すことで新たな展開を生むことになります.

仮定と確認,この繰り返しが研究を進めることとなります.

では,受理される論文とはなんでしょう.基本は,きちんとした結論が得られている論文です.きちんとした結論とはなんでしょう.過去の研究で述べられていないことであり(新規性),広く利用できそうな(実用性)なものです.「夏は暑いことがわかった」では誰も認めてくれません.
「論文は研究を広く知ってもらうためのものであり,論文を書くために研究するのではない」.しかし,これは建前.最近の業績重視は,「まず論文書くべき」の風潮が蔓延しています.しかし,研究には見通しの良い研究と立ちにくい研究があります.つまりすぐ書ける研究となかなか書けない研究とがあります.見通しの良い研究は簡単に成果がでますが,コンサル的な仕事とみなされることも多く,重宝されないことがしばしばです.一方,見通しの悪い研究は,ブレイクスルーが必要となりますが,うまくいった際に大いに参照されることになります.



余談4 自己満足にならないために

得られた結果が客観的に人に役立ちそうかどうか考えてください.もちろん,そこらへんのことは序論に書かれていると思いますが,人がそう判断するかどうかは疑問です.200%手間をかけて,1%の精度向上は,見向きされないことになります.研究計画を立てる際に,工学的実用性を考えてみてください.

但し,基礎研究のように現在役に立たなくとも将来に利用可能性があるというものもあるでしょう.ここらへんは教官や学会の発表を通して知るしかないようです.普通,公表論文を出す前に学会で発表して,広く意見を求めるようにします.そうすることで研究がより洗練化されることになります.


余談5 不採択論文の原因

数多くの不採択論文があります.理由はもちろん,内容が足りないや記述の体裁があっていないなどです.しかし,そうなった原因は他にあります.その間接的理由を考えると,

1.締め切り間際になんとかしようとしすぎる.
2.広く人の意見を聞いていない.

海岸研の場合,これらに尽きるようです.時間に余裕をもって提出してください.余談4と同じですが,”余裕”は大変大事です.




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