ワインの話

時はバブル.日本が世界で一番早くボジョレーヌーボーを飲めるとかで,すっげぇ流行った.猫も杓子もボジョレーだ.いや,ボジョレーだけでは不十分で,ボジョレーは地名だからボジョレー新酒ということになる.なにはともあれ皆飲んだ.そのうち,あれは実は大したことはないというのが広まってブームは落ち着いた.その時に色々なヌーボーが紹介されていた.オーストラリアやチリは,気候が逆なので,6月頃にヌーボーが飲める.こっちの方が安くてうまかったりする.

そういえばここでワインの話をするのは初めてだ.ワインはもっぱら連れが良く本を読んでいて,私なんぞはあのアペラシオンなんたらとかAOCとかDOCGとか権威まみれなものはうんざりだ.だから極力ワインは飲まないようにしていた.そう,それに安いくなったとはいえ,まだ高い.征服欲の強い私は,ワインの世界は広くて深くてとてもとても.... スコッチですら音を上げたのに.

またまた矛盾するが,でも高級ワインというのは飲んでみたい.ロマネコンティやロートシルトの話は有名だが,値段と権威も有名だ.「人気者でいこう」というテレビ番組で,テーブルワインと高級ワインの飲み比べをしていた.これが実に面白くて,ほとんどの人が「うぇー」という.酷いのは吐き出している人もいた.これが高級ワインの特徴らしい.飲んでみたい.

ところでラオスの空港でフランスワインを安く売っている.宗主国の名残だと思うが,ウイスキーなんかより多く置かれている.とすると東南アジアの人はワインをよく飲むのかしら.タイには立派なワイナリーがあったりする.今度飲んでみることにしよう.


亀酔

きっすいと読む.山形県高畠町の米鶴酒造の酒.保存状態が良くて冷えたやつを飲んだとき,上等な白ワインだと思った.夏子の酒のもととなった酒米亀の尾を使っている.やや辛口だが味わいはとてつもなくフルーティだ,久々にバシーンときた酒だった.また,香りがよい.日本酒らしくない香りだ.こいつは猪口でのむよりワイングラスで飲みたい.つまみも洋ものがよいかもしれない.

こういう酒に出会うとうれしくなる.値段も目が飛び出るほどではない.しかし,リーズナブル!といえる酒でもないので,やはり晴れの日の酒ということになる.米鶴酒造は変わったネーミングの酒が多く,F1とか巨匠とかいう名前の酒もある.

以前酒のネーミングは大事だと述べたが,様々な名前を付けるのは日本酒の文化の一つと思われる.他の国は地名や人名などが好んで付けられる.素晴らしい日本の文化だが,名前が似ているために混同することもしばしばだ.久保田と久保田城や越の寒梅と星の寒梅はまだしも,男山と名のつく酒は有名なところで3つもある.「男山飲んだことあるぅ」と自慢気に言えば,周りと違うものだったなんて喜劇がありうる.

それでも日本酒のもつ名前は僕の創造をかきたててくれる.だけど,亀酔なんて名前は硬派なイメージだからもうちょっとロマンティックな方が良いのではないでしょうか?


幻の椰子酒

研究室紹介の冊子の自己紹介で,椰子酒と馬乳酒を飲むのが夢と長く書いてきた.そのチャンスがついにおとずれたのは2002年夏のスリランカであった.このとき,2つの地方大学と1つの研究所を回らなければならず,スリランカの左下半分を車で回るはめになった.前の年にNYテロがあり,テロリストの締め出しが世界で始まり,スリランカのタミル・イラム開放の虎(LTTE)が平和交渉の席についたためスリランカの旅が可能になったのだ.

地球の歩き方に書いてある.西海岸では「ラー」と書いた看板のある所で椰子酒が飲めると.血が大いに騒いだ.運転手だったナワに看板を見つけたら必ず止まるように言い,休憩の度に聞いて回った.その結論は,入手が大いに難しいということだった.理由は,(1)朝に酒を作りそのまま近所で飲んでしまうため出回らない,(2)ラーは雄花を切ってそこからの樹液を発酵させるのだが,椰子に利用した方が換金率が高い,(3)熱心な仏教国なので公の場であまり酒を飲まない等であった.あらゆる場所で訪ね歩いたが西海岸のはずれまで,とうとう手に入れることが出来なかった.その落胆振りを見てナワは実家に頼んでみると言ったがやはり無理そうであった.

山岳地帯のホテルに泊まっているときに,椰子酒を蒸留して作ったアラックを飲んだ.VSOAという高級アラックである.泡盛に似ていたが,いかんせん蒸留酒のため上品な味わいになっていた.アラックは各国で作られていて,日本の大きな酒屋でも手に入ることがある.インドネシアのアラックが有名で,こちらは麦焼酎に似ている.ナワはこれも椰子酒だと言ったが,どこか割り切れないものがあった.

ペラデニヤ大学工学部の新入生のコンパではこのラーが振るまわれる.みなが飲んで池に飛び込む奴もでるくらいに飲むそうだ.この酒は地方からかき集めてくるとのことだが,こういう楽しい話を聞くと尚更飲みたくなる.

そうこうしているうちに旅も残り2日となった.クルネーガラからコロンボへの道中,ヨーグルト(カード)を購入していた店のおばちゃんが2kmほど戻ったとこでラーを売っているかもという.といっても今までこういった情報に何度なく裏切られてきたので,もういいやと思った.ナワが時間があるので行ってみるという.行けども店がなくやっぱりと思いつつも,5kmほど戻ったところにタバコ屋風の店を見つけた.果たしてラーはここにあった.

白いバケツに入ったラーはカルピスのようで甘酸っぱいジュースのようであった.やや発泡しているようだ.注いでくれたコップには蝿が浮いていたが構わず飲んだ.味はどうでもよかった.ただ感動していたのだ.冷えていればもっと美味しいだろう.アルコール度数も3%位ではないだろうか.この店も朝のうちにほとんど飲んでしまったようで,残っているものを売ってくれた.そこの少年に言わせれば,朝が一番うまいそうだ.夜になると発酵がすすみ渋みとアルコール度数が上がるので美味しくないとのことであった.ちなみにラーは1リットル150rp.日本円にして200円位だった.

何はともあれ椰子酒が飲めた.希少酒を飲めたときの感動は最高だ.今度の教官紹介には,椰子酒の素晴らしさを書くことにしよう.


ラッフルズホテル,ロングバー

シンガポールでの学会の時,学生の萩原を誘ってラッフルズホテルに行った.萩原もここ数年で(うまい)酒に目覚めた一人だ.その日は僕に発表があって,終わったらご褒美にロングバーに行こうと決めていた.うまくいこうがいくまいがだ.発表は思ったより好評で狙った笑いも取れて満足.気をよくした僕は萩原にご馳走してやることにした.

学会はマリーナマンダリンとかいう偉くゴージャスなホテルで,ラッフルズホテルの近くである.ちなみに我々が泊まったホテルはここではなく,サマービューホテルの窓のない部屋に泊まっていた.歩いて5分くらいとはいえ,熱帯であるため汗だくになるのと,工事をやたらしていて歩きにくい.ホテルの外壁沿いに歩いて脇からバーに向かった.階段を上った2階にあり,ホテルのバーというよりリゾートホテルのバーといった感じ.開放的で日差しを避けた窓のためやや暗く,エアコンはきいておらず,団扇の扇風機が風を寄せてくれるといった具合だ.

失敗だったのは,背広でこの店にいるのは我々日本人二人だけであった.時間は5時.ハッピーアワーのためか周りは皆,短パンTシャツの欧米人であり,かなり浮いていた.これに負けずレッドアイを注文すると,給仕は知らないという.そこでレシピを教えてやっているとマネージャーらしいおっさんがきて,かしこまりましたという.ちょっと思っていたバーと違う.机の上に置かれたピーナッツをほおばりながら,「これはリゾートにあるバーだ!」と悟った.高級ホテルについているバーではないのだ!ロングバーは!

周りの客は皆シンガポールスリングを頼んでいた.子供まで飲んでいた.おそらくめったにそれ以外の注文が出ないのだろう.2杯目にシンスリを頼む.オリジナルのグラスに作りおきしてあるやつを”だー”と注いで,くたびれたパイナップルとチェリーが添えてある.かなり甘い.後ろのフランス人の集団はそれぞれシンスリ一杯づつ頼み写真をばしゃばしゃ撮って,大声で騒いでいた.向こうのアメリカ人と見られる家族はときどき子供が叫び声をあげていた.

帰りにラッフルズホテルのアーケードを歩いた.お土産屋であのグラスを売っていた.萩原はこれを買った.このアーケードは想像したラッフルズの雰囲気で静かな落ち着いたものだった.あのロングバーのカジュアルさは一体なんだったのだろうか.....






泡盛

知らなかった。泡盛とは沖縄焼酎のことだと思っていた。米焼酎との違いがいくつかある。1.黒麹である、2.インディカ米を使う(タイから輸入している)、3.全麹仕込み(もろみをつくらない)が主な違いである。ほとんどの味は、米焼酎と違い独特の風味があり、どっちかというと芋焼酎や茅台に似ている。度数も25度くらいから50度を超えるものまである。しかも50年も寝かした古酒(クースー)もある。よく知られた「どなん」は予那国島であり、小さな離島でも多くの泡盛を作っている。これだけ蒸留所があるとはすごいことだと思う。ケンタッキーよりすごい。これはもう日本のハイランドと言える。普通、蒸留酒は寒い地方で好んで飲まれるが、亜熱帯の沖縄では大いに発展したのは不思議だ。しかも貴重な米を使ってだ。

2003年の4月に初めて沖縄を訪れた。児島君と道生君にずいぶんと世話になったが、その一つに泡盛館へ連れていってもらった。ここはおおよそ沖縄中の泡盛が並んでいる。大きな甕のものはそのデザインが良くてもって帰りたいが、重いのが問題であった。結局、知っていた那覇の瑞穂を選んだ。これも甕のミニチュアみたいでなかなか良い。焼酎はまた外側も楽しい。沖縄グラスやグラスを椰子の葉で囲んだもの等楽しませてくれる。また、シークエーサー入りだとかグアバ入りだとかのいかにも沖縄のチュウハイがあったりもする。これはあきない。

飲み方も決まっていないらしい。居酒屋では水割りかロックが多い。だけど度数の小さなやつはストレートでもいける。お湯割りもいけそうだ。ここら辺は焼酎と同じである。だけど、亜熱帯独特の気候では屋外でやはり低い度数をそのまま常温で飲むのがよさそうだった。残念ながら沖縄で泡盛を感じるまで飲むことができなかった。こんどの訪問ではきちんと勉強してから飲みたいものだ。