大津波免れた 荒砥沢ダム土砂流入で専門家指摘
高さ約150メートル。大崩落の突端は、がけのように垂直に切り立つ。むき出しになった地肌が破壊力の大きさを物語る。 荒砥沢ダム上流では幅700メートル、長さ1000メートルにわたって土砂が崩れた。土砂量は、東京ドーム56杯分に当たる推定7000万立方メートルにも達する。 崩落した土砂は南東に300メートル移動した。150万立方メートルがダムに流れ込み、高さ約3メートルの津波を発生させた。 「第二のバイオントダムにならなくて、よかった」 荒砥沢ダムを上空から調査した京大防災研究所斜面災害研究センターの福岡浩准教授(地滑り学)は、ダム史上最悪の事故になぞらえる。 1963年。イタリア北部のバイオントダムの斜面で大規模な地滑りが発生。2億数千万立方メートルの土砂がダムに流入し、高さ100メートルを超す大津波がダムからあふれ、2000人以上が死亡した。 荒砥沢の崩落土砂の量はダム貯水容量(1400万立方メートル)の1割程度だった。東北大災害制御研究センターの今村文彦教授(津波工学)は「流入量が多ければ津波がダムを越え、下流に大災害を引き起こしたかもしれない」と推測する。 荒砥沢の場合、崩れた土砂が北側の山にぶつかってダム湖を直撃しなかったため、大津波は発生しなかった。 ダムの最高水位は277メートル。洪水期を前に、水位を268メートルまで下げていたことも幸いした。 東北大大学院環境科学研究科の風間聡准教授(水工学)は「貯水量に余裕があっても土砂流入の勢いが大きいと津波はダムを越える。下流では地震に加え、洪水への注意を促すことが必要」と指摘する。 崩落後も土砂は一日10センチほど動いたという。土木研究所地すべりチームの藤沢和範上席研究員は「土砂は山に衝突していて、新たにダム湖に大量流入する危険性は低い」と言う。 今回の地震は専門家もノーマークだった活断層が引き起こした。もし、ダム直下の未知の断層が動けば、ダム本体が破壊される可能性もある。福岡准教授は「ダムを建設する際には徹底した地質調査が必要だ」と強調している。 2008年07月02日水曜日 河北新報
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