富並川 村山市

人災事故現場調査
2006年9月6日(水)曇り  菅野+YBC



発見現場

真ん中から流された現場.鮭養殖場近く.






上流泥尻川砂防地区.おんどりそば屋より望む.

山形放送の報道



事故報道



ニュース追跡 村山・富並川の2児童水死
2006年08月24日朝日山形


透明な流れを取り戻した事故現場近くの富並川=村山市富並で

 ∞見えにくい川の異変

 川は一夜明けると、せせらぎに変わっていた。だが、夏の水辺にいつもの子どもたちの姿はない。村山市の富並川で22日、2人の小学生が死亡した水難事故。2人をのみ込んだ濁流は、上流での局地的な豪雨が原因と見られている。川の異変を事前に察知することは、できなかったのだろうか。事故の教訓を探った。
(宮島祐美、安川嘉泰、竹原大祐)

 ●上流に濁流のつめ跡

 現場から500メートルほど下流にはサケの孵化場(ふ・か・じょう)がある。2人と一緒に川にいた祖父(60)は事故の後、ここに駆け込み、助けを求めた。119番通報した孵化場の男性(70)は30年以上、川を見続けてきた。


 「サケが上ってくるきれいな川だから、ずっと子どもたちにも魚捕りや水遊びをしてもらおうと思って管理してきたのに……。2人の子どもに申し訳ない気持ちだ」と言葉少なだ。

 夏、子どもたちにとって、富並川は泳いだり、アユやカジカを釣ったりする格好の遊び場だ。秋にも芋煮会を開いたり、カジカを放流したりするなど、地元の人にとって憩いの場でもある。

 事故現場を流れる水は、前日の茶色い濁流から一変、川底が透けて見えるほど澄んだ流れを取り戻していた。

 現場に花を手向けに来た人たちは、穏やかな川を見つめたまま「ここを流されていったの」と、信じられない表情で泣き崩れた。

 21〜23日は、村山市の一大イベント徳内まつりが催されている。

 亡くなった小学2年生の男児が通っていた富並小学校はまつりのため休校だが、川に子どもたちの遊ぶ姿は見られなかった。

 富並川と並行するように走る県道36号を上流に5キロほど上り、同市山ノ内地区に入ると、川は2つの支流に分かれる。川はそれぞれ滝の水が注いだり、川底に大きな石が転がっていたりして、渓流の風情だ。

 事故のあった22日午後、現場には晴れ間が広がっていた。

 だが、山ノ内地区では午後から雨が降り続いていたという。葉山登山口付近まで上ると、川岸の草木は倒れており、濁流の痕跡を残していた。

 山ノ内地区の女性は「山に雨が降ると、川はゴロゴロと雷のような音を立てて大きな石を流す。山の天気によって川の流れは一変する」と話した。

 ●現場は晴れ、突然の大水

 県教委は23日、県内の小中高校などに水難事故の防止に努めるよう文書で通知した。学級活動や保護者に向けたプリントを通じて、河川で遊ぶ際には事前に台風情報や各種注意報を確認するよう呼びかけることを求めている。

 だが、事故当時、現場付近は晴れていた。事故は防げたのか。

 現場近くの女性(80)は、「昔から上流の葉山に雨が降ると川が暴れると聞かされており、下流の方は晴れていても、葉山では大雨ということはよくある。昨日も下流はよく晴れていた。でも、子どもが山の天気を見ながら川に入るなんて難しい」と話す。

 さらに別の近所の人たちも「(2人と一緒にいた祖父は)川のことはよく知っている人。でも、きのうは予兆がまったくなく、突然濁った。これまで見たこともないほどだった。大水が分かっていたら、川に連れて行かなかったはず」という。

 ●1時間半前、葉山で豪雨

 富並川は最上川の支流で、長さは9・1キロ。河川の規模としては、山形市内を代表する馬見ケ崎川の約3分の1に当たり、県内に流れる555河川の中では比較的小さな川に分類される。

 しかし、流域面積44・6平方キロメートルのうち、ほぼ全流域に相当する44・2平方キロメートルが山地であることが大きな特徴だ。両岸のほとんどが斜面で、上流には急斜面の葉山(標高1444メートル)がそびえており、雨水が流れやすい地形になっている。

 一般的に、河川で急激な増水があった場合に疑われるのが、崩れた土砂や倒木でせき止められた水が、せきを切って流れ出す「鉄砲水」。だが、23日朝から県の防災ヘリが確認した範囲では、これらの痕跡は見つからなかった。

 さらに、事故の約1時間半前に当たる22日午後1時現在、アメダスで観測された雲から推計した「解析雨量」では、葉山の山頂付近で32〜41ミリの激しい時間雨量を記録。県が管理している現場上流約1キロ地点の水位計の値は、同日午後2時10分からの10分間で、72センチ上昇していた。

 これらのデータから、県河川砂防課は「今回の濁流は鉄砲水ではなく、上流で降った集中豪雨が急激に流れ込んで一気に増水したのではないか」と分析する。同じような川は少なくなく、「他の川でも十分起こりうる」(同課)のが現状だ。

 同課は、河川に設置した観測機器が一定水位を記録した際、同課職員に一斉メールで水位情報を知らせるシステムを試験運用している。

 来年度は観測する河川を増やしつつ、一般に向けてもメール配信できるか検討することにしている。

 ●「水濁ってから避難は遅い」 専門家

 朝日町で、子どもらを対象に自然観察会などを開き、自然とのつきあい方を教える自然公園指導員の西沢信雄さん(57)は「雨などの影響で川の状況は一変する。安全な川は『ない』と言っていい」と指摘。川遊びをする基本動作として、天気予報を確認することを子どもたちに学校で指導するよう訴える。

 西沢さんによると山間部を流れる川は、好天でも常に危険性をはらむ。いつも遊んでいる川は安心だ、という先入観も危険だという。川の水が濁ったら直ちに避難すべきだが、濁ってからではかなり遅い。鉄砲水が近くまで押し寄せ、あっという間にのみ込まれるからだ。

 避難する場合も注意が必要で、川の中から出て川岸にいても、水は川岸まで迫ってくる場合があり、川岸より高い場所まで逃げることが肝心だという。

 山や川に出かける時は、可能な限り、天気予報を確認することが水難事故の防止につながるという。中でも雷雨注意報が出ている場合、川には行かないとの心構えで自然とつきあってほしいと訴える。

 県河川砂防課は、00年から「水辺に親しむための心がけ6カ条」をホームページで掲載している。99年に神奈川県山北町の玄倉川で、局地的な豪雨によりキャンプ客18人が流され、13人が死亡した事故を受けて、同課が川遊びに出かける人々に注意を促すために作成した。6カ条には、ダム放流時のサイレンに注意すること、川の流量の変化に気を付けることや、中州や河原にテントを張らないようになど、注意を呼び掛けている。

 ただ、富並川にはダムはなくサイレンも、警告看板も設置されていない。



児童2人流され死亡 川遊び中、突然増水か 村山
2006年 8月23日 (水)
(河北新報)


 22日午後2時半ごろ、山形県村山市富並の富並川で、川遊びをしていた子ども2人が流されたと近くのサケふ化場の従業員が119番した。現場の下流で、同市富並、自営業太田光治さん(31)の二男直希君(7つ)=富並小2年=と、仙台市青葉区栗生2丁目、会社員庄子浩之さん(35)の長女玲奈さん(6つ)=栗生小1年=が相次いで発見され、病院に搬送されたが、死亡が確認された。死因はいずれも水死とみられる。

 村山署の調べでは、2人は同日午後1時20分ごろから、直希君の祖父(60)と小学3年の兄(9つ)の計4人で、川で遊んでいるうちに流された。直希君は午後3時ごろに現場から約1.2キロ、玲奈さんはその1時間半後に約400メートル下流で見つかった。太田君兄弟と玲奈さんは、いとこだった。

 通常、この時期の富並川は低水位だが、突然増水したとみられる。山形地方気象台によると、現場の南西にある月山で、午後零時から1時間に21ミリの強い雨が降った。山形県河川砂防課によると、現場から1.5キロ上流の観測地点の水位は、午後2時10分からの10分間で72センチ急上昇した。

 通報したふ化場の男性従業員(70)は「午後1時半ごろの水位は20センチ程度で、アユが泳ぐのが見えた。2時から2時半にかけて突然、津波のような『ゴーッ』という音がして水かさが増した。子どもたちが遊んでいなければいいが、と嫌な予感がしていた」と青ざめた表情で話した。

◎いとこ同士 楽しい夏休み暗転

 突然、押し寄せた濁流が幼い2人の命を奪った。村山市の富並川で22日発生した水難事故。里帰り、夏祭り、川遊び…。7歳と6歳の児童の夏の思い出は、最終盤に暗転した。

 亡くなった太田直希君(7つ)の自宅近くに住む女性(65)によると、一緒に犠牲になった仙台市青葉区の庄子玲奈さん(6つ)は今月上旬、村山市の母方の祖父(60)宅に遊びに来ていた。年齢の近い、いとこと遊ぶのが楽しみな様子で、夏の恒例行事だったという。

 事故前夜の21日、玲奈さんは直希君らと「むらやま徳内まつり」に参加。にぎやかなおはやしに乗って踊る直希君に、玲奈さんは沿道から拍手を送ったという。直希君と一緒に踊った同級生の大場尚君(7つ)は事故を伝えるニュースに「きのう、あんなに楽しく踊ったのに」とショックを受けていた。

 事故現場で一緒だった祖父は、3月に会社を退職したばかり。近くの主婦(55)は「猛暑だったので連日、張り切って孫たちに川遊びをさせていた。都会から来た孫が、かわいくてしょうがない様子だったのに」と目頭を押さえた。

 事故現場になった富並川の普段の水量は大人のひざ程度しかなく、流れも静か。サケのふ化場があり、毎年の稚魚の放流には地元の小学生が参加するなど、子どもたちにとって身近な川だった。

 川近くの自営業男性(68)は「終戦後、河川改修で河床がコンクリートになった。上流の森林伐採が進み、鉄砲水が出る回数が増えた。今回も人災のような気がする」と厳しい表情で、幼い命が失われたことを悼んだ。



上は事故発生から約2時間後の富並川=8月22日午後4時20分。下は普段の富並川=8月7日(いずれも山形県提供、矢印は川が流れる方向)



村山・富並川の2児水死:県、増水河川リストアップへ 急こう配や谷など調査 /山形

 村山市富並の富並川で22日に児童2人が水死した事故で、県は25日、富並川のように急激に増水する恐れのある川を選び出し、市町村などに周知する方針を明らかにした。
 斎藤弘知事は「富並川のような事故を防ぐには川遊びの際に注意を呼びかける必要がある」と述べた上で「富並川は、距離が短く滝のように流れる川だった。同じように増水しやすい川についてリストアップする必要がある」との考えを示した。
 県河川砂防課によると、急こう配や谷などの地形を条件に該当する川を数カ月程度で調べるという。また、気象や水位情報について、携帯電話などを通じて連絡する体制構築を目指す。【辻本貴洋】

8月26日朝刊
(毎日新聞) - 8月26日13時2分更新