水循環が及ぼす影響を知りたい

水は移動します.そのときに色々な現象を生じさせます.洪水や渇水もそうです.土砂や化学物質も運びますし,動植物も運びます.これらの現象を水の移動と結び付けて,広域の環境を読み取ろうとしています.


フィールドとシミュレーションと実験
個性によって,フィールド,計算,実験と選ぶことができます.

でも室内での研究だけでは不健康かもしれません.屋外での観測は,五感に訴えかけてきますし,脳細胞に新しい刺激を与えてくれます.雪山に登ってスキーで下る,渓流に入って虫をさらう,氾濫原の水を集める,土砂崩壊現場や洪水現場でその規模を測る,こうしたことは見て,触って,嗅いで感じることができます.現場観測は研究活動の一環ですが,実物からスケール感を養うこと,危険対策や調査計画を立案することなどのマネジメント能力も鍛えてくれます.一方,屋内でもシミュレーションするにはプログラミングが必要ですが,これは論理的思考能力を鍛えてくれます.実験ではデータの持つ統計的な解釈や実験作業のマネジメント能力などを習得できます.研究内容も大事ですが,個人の性格による向き不向きも大事です.


温度計の回収

名取川流域融雪水流下

ホテルでの水質分析



水文モデルの広域への応用
深刻な洪水や渇水などは極値現象といって数十年のオーダーで生じるので,データが豊富にあるわけではありません.そのため,数値モデルによるコンピューターシミュレーションによって再現させ,中身を吟味することが必要です.また,流域全体の水量や流速などを観測することは不可能ですが,シミュレーションによって流域や日本国内の水動きを空間的に理解できます.こうして得た水に関する情報を様々な関連情報と結び付けることができます.水生昆虫や魚などの生態情報,土砂や栄養塩などの水質情報,建物被害や道路被害などのリスク情報などと結びつければ,シミュレーションによって広域の地図情報を提供することが可能です.例えばホタルの生息マップや洪水リスクマップなどがそうです.


名取川流域ホタル生息場

気候変動による洪水被害額

川(我々は河川という)は,上流から様々な水を集めてくるので,その地点だけで見てもなかなか全体を見ることはできません.様々な現象が有機的に結びついているので,広い視野で考える訓練が必要です.


途上国への想い
水問題が最も深刻なのが途上国です.最低限の水量も水質も確保することができない地域がたくさんあります.これを,土木の力でなんとかしたいと思うのは,”土木屋”なら皆感じることです.1997年にタイ国のアジア工科大学院(AIT)にJICA専門家として派遣されました.AITは大学院教育ができないアジア各国の学生を集めて修士博士の教育を実施する機関です.ここでアジア各国の多種多様な問題を目の当たりにしました.基本的な学問(水理学や水文学)の知識が,解決策を考える上で必要となります.

当時,カンボジアの内戦が終息し,ラオスの市場開放が始まったときであり,メコン河の開発,管理に注目が集まっていました.メコン河の2000年洪水解析,河岸浸食の解析(地盤研と共同),地下水資源解析,氾濫の経済効果(社会システム研と共同),水系感染症リスク評価(水質研と共同),氾濫肥沃化の証明(水理,水質研と共同)など実施してきており,長い実績と経験があります.また,タイ国においても,蒸発散推定,北部山岳域の水紛争評価,ムン川水質解析,斜面災害評価,将来海岸侵食評価(ポテ研共同)を実施してきました.これ以外にも,スリランカとオマーンの地下水への海水浸入や水資源解析,ベトナムデルタの洪水水質解析などを行なってきました.


カンボジアの氾濫水採集

ラオスでのボーリング


途上国の水問題は現在進行形です.日本のたどってきた道と似ていることもありますが,内情は全く違うこともあります.日本と同じ方法を適用すると痛い目にあうことがあります.実情を理解するために現地観測やヒアリングは大事なことです.個別技術も大事ですが,水問題は,空間的に広い範囲で生じるので,広い学問分野が関係します.広域のモデリングによって,問題の核を見つけて,それを解決する手段を色々提示したいと思っています.

カンボジアでの取り組み: 2006年秋 青葉萌ゆ



○ 風間聡の研究の考え方と経歴:

-最前線の研究者たちに聞く-,地球温暖化研究のフロントライン,国立環境研究所,pp.86-91,2013.2.

インタビュー記事,地球温暖化:日本への影響, RPG Nature, 英国大使館,